マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟、通称MANGA議連の総会が、1月30日に東京・衆議院第1議員会館で行われた。総会にはMANGA議連の会長を務める古屋圭司氏をはじめとする議員や、文化庁の文部科学大臣政務官を務める赤松健らが出席したほか、日本漫画家協会会長のちばてつや、理事長の里中満智子、常務理事の森川ジョージ、アニメ特撮アーカイブ機構代理理事の庵野秀明が登壇し、MANGA議連のヒアリングに応じた。
MANGA議連の目的、文部科学大臣政務官・赤松健の挨拶
2014年に発足したMANGA議連は、日本のマンガ、アニメ、特撮、ゲームといった文化的資産のさらなる振興や、それを実現するための社会的、制度的基盤の整備促進などを目的とした連盟。現在、最高顧問の麻生太郎氏、顧問の林芳正氏をはじめとする議員100人超が加盟しており、これまで海賊版サイト・漫画村の閉鎖や大英博物館での「Manga展」開催などに携わってきた。また発足当初より、マンガ原画やアニメの絵コンテなどの海外流出・散逸防止のため、それらの資料をアーカイブする収蔵施設・メディア芸術ナショナルセンター(仮称)の設立構想を提起。2024年12月には令和7年度予算案にその設立や資料保存のための予算を計上した。また各分野のクリエイター育成のための支援や、AIを活用した海賊版サイトの検知、分析にまつわる事業を推進している。
総会開始後、会長の古屋氏は「日本が誇る世界一のソフトパワー“MANGA”(Manga、Animation、Game)を更に強くしていくためにもナショナルセンターを設置し、世界に情報発信をしていきたい」と挨拶。赤松は「マンガ・アニメ・特撮などの作品の資料収集、保存、活用のためのセンターの設備が急務と言えます」と訴えかけ、なかでもアニメに関して「『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を見まして、日本はまだ10年は戦えると確信しました。『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』などに代表される2Dアニメは、日本の独占技術に近いと思っています。クリエイターの意欲と能力を最大限に引き出すためにも適切な支援を進めてまいりたいと思います」と述べた。その後、文化庁や経産省によるMANGA関連施策に関する現状説明や問題提起、事業の報告などが行われた。
ちばてつや、“先輩”たちの早急な原画保存を訴える
文化庁によるマンガ原画の劣化を防ぐ保存調査のため、「あしたのジョー」などの原画提供に協力してきたちば。MANGA議連の報告を聞き、「こんなにみんながマンガやアニメやゲームのことをすごく大事にしてくれていると知って、びっくりしています」と驚いた様子を見せる。「昔は『マンガなんて読んじゃダメ!』と言われており、家にマンガは1冊もなかった。小学生で(満州から)日本へ戻ってきたときには、日本にいろんなマンガがあると知ってカルチャーショックを受けました。でも手塚治虫さんみたいな素晴らしい作品も、ちょっと色っぽいシーンが入っていたことで焚書されていた。そういう時代を経て、石ノ森章太郎さんたちをはじめとする先輩たちが我慢して我慢して、いい作品を出したいと繋げてきた先に、今のマンガやアニメーションがあるので、これは大事にしなきゃいけないと思います」と述懐。そして「葛飾北斎たちは和紙に描いていたので保存できていましたが、戦後のマンガ家は画用紙やケント紙を使用していたことから、(原画の)劣化が早いんです。文化庁の皆さんが私の原画をどうしたら保護できるのかといろいろ研究してくれているのはとってもうれしいのですが、私よりも先輩たちの作品がさらに劣化しはじめているので、先んじて守っていただきたい」と議員らに呼びかけた。
庵野秀明「アーカイブは時間との戦い」、クリエイターの人材育成も急務
2014年に開催されたMANGA議連の総会に参加していた庵野。まず「皆さんがおっしゃっているアーカイブの早期実現、これは本当に時間との戦いです。今も日々貴重な資料は着実に失われています」と訴える。アニメの資料については今年50周年を迎えた「宇宙戦艦ヤマト」を例に挙げ、「(絵コンテなどの資料は)制作会社が残しているため現存していますが、会社自体がどうにかなってしまったら散逸してしまいます。昔のアニメの資料に関しても、個人が引き取って大切に保管してくれているから残っている。しかし、これも家族に処分されるなどの事態が起きており、ここ数年激しくなってきています。年単位ではなく月単位で進めていっていただきたいです」と直訴する。
また制作現場における人材不足にも言及し、「人材育成も急務です。現場にいると本当に人が足りません。いろんなアニメーションが遅延していますが、主な理由は人材不足に起因していると思います。昔はブラックなイメージもあった業界ですが、今は改善されてきていますし、マスコミ等でアニメ業界のいいところも取り上げていってほしいです。個社による取り組みでは十分な成果に至っていません」と話した。さらにタックスクレジット、つまり税額控除の実現についても言及。「アニメを作るときに補助金をいただくのも本当にありがたいのですが、作ったあとの体力を少しでも維持させるために、各スタジオへの補助を国からいただければと切望しております。映像産業への税制優遇制度は少なくとも50カ国以上で実施されており、国際競争の観点でも不利益な立場に置かれています」とその必要性を説いた。
原画保存と人材育成については文化庁から回答。アーカイブは早急に進めていくこと、メディア芸術ナショナルセンターの設立が明確になったとはいえ、それを待っていられないマンガ家の原画については、民間の設備で預かる準備を進めていくことを述べた。また人材育成は、今年度の補正予算にクリエイター支援基金の事業を組み込んだことで、若い層がしっかりと力を付けて業界に入っていく流れを作っていきたいと表明した。
海賊版サイトの現状は月間15億アクセス。国に求めるのは海外に向けた長期的な啓発活動
海賊版サイトの最新状況と対策については、一般社団法人マンガアーカイブ機構の立ち上げに携わり、民間で海賊版対策を行う一般社団法人ABJの代表理事である講談社専務取締役・森田浩章氏と、同じくABJの広報部会長であり、10年以上海賊版対策に従事してきた集英社の伊東敦氏が説明。2021年に海賊版サイトでタダ読みされた金額は、国内だけで1兆円超に上る。そこからある程度は抑え込むことができたものの、体感的には2024年は再び1兆円に近づいていると報告する。伊東氏は海賊版サイトは多くが海外で運営され、英語だけでなくベトナム語やインドネシア語、スペイン語など多くの言語で無許諾で翻訳されており、そのアクセス数は月間で15億以上だと説明。特にベトナムが活発であり、実習生として来日したベトナム人がマンガやアニメの魅力に気づき、帰国後に海賊版サイトの運営を始めたと推測されていることが伝えられた。「運営元が海外のため、最大の抑止力となる刑事告発が困難。各省庁に尽力いただいているが、現地当局の動きが遅々としているため対策が進まない」と話す伊東氏は、今後5年、10年のスパンで啓発活動が必要とも訴え、各省庁に改めて協力を要請した。
里中満智子、森川ジョージが思う表現の自由
最後に里中、森川もコメント。里中はMANGA議連をはじめとし、原画保存や人材育成に目が向けられるようになり「本当にここまで来たのは、感無量です」と述べるが、表現の自由に関する問題についても言及。「非常識な表現というのは良識に基づいて判断していくものだと思っております。ですが、これまで悲しかったのは、例えば一定以上肌が見えるとすぐにエロだと言われること。ちば先生の『のたり松太郎』は相撲のマンガですので、かなり肌が出てしまいます。でも誰も『のたり松太郎』をエロマンガとは思いません。しかしそういった部分は、利用しようと思う人にとってはいくらでも利用できる。そういう、本当に次元の低い決めつけ方で表現が不自由になる可能性はなきにしもあらずなんですね」と語った。森川は暴力シーンに関する表現について触れ、少年誌では血の表現が厳しいことを訴える。「少年誌の医者マンガなどでは、本当の患者への配慮から手術シーンを描けないんです。(描けるのは)メスを突き立てたときの一滴の血だけ。青年誌では描けますが、少年誌では表現できないということで多くの作家が苦しんでいます」と出席者たちに伝えた。
(コミックナタリー)